9/27/2009

『ダメージ』と『ロー&オーダー』とハローワーク

ブロードウェイの劇場に入ると、客席案内係のアッシャーにPLAYBILLいう小冊子を手渡される。

今から見る芝居が何幕何場ものか、インターミッションの有無と長さ、ミュージカルの場合はミュージカルナンバーのタイトルとそれを歌う役の名前、オーケストラメンバーの名前も載っているプログラムだ。

もちろん、クリエイターや出演者のプロフィール情報もあるし、その他にシアター関係の特集記事も数本掲載されているので、プログラム付きのシアター雑誌とも言える。(注1)


我が家にあるPLAYBILLの一部
さて、どれがどれか全部わかるかな?

PLAYBILLにはウェブサイトもあるのだが、そちらはブロードウェイだけでなく、国内ツアーやロンドンのシアター情報も豊富で、わたしも定期的にチェックするサイトのひとつだ。

先日、そのPLAYBILLのウェブサイトをパトロールしていて、面白い記事を見つけた。

舞台俳優達のテレビ出演歴としてマスト・ハブだった『ロー&オーダー』("LAW & ORDER")を、『ダメージ』("Damages")は凌ぐことになるのか、ってな短い記事だ。

なるほど、確かにニューヨークの舞台俳優には『ロー&オーダー』に出演している役者が多い。

劇場でPLAYBILLのページをめくって出演俳優の経歴を見てみると、たいていがテレビ出演歴として『ロー&オーダー』をあげているし、むしろ『ロー&オーダー』に出ていない役者を捜す方が難しいくらいだ。

たまに、「あ、こいつは出ていないぞ」と思ったら、既に成功した俳優だったり(なので『ロー&オーダー』以外に書く経歴がゴマンとある)、イギリス出身の俳優だったりする。(注2)

えーと、知らない人のためにちょいと説明しておくと、『ロー&オーダー』というのは1990年からアメリカのテレビで放映されている刑事・法廷ドラマの長寿番組だ。

『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』("Law & Order: Special Victims Unit")や『LAW & ORDER:犯罪心理捜査班』("Law & Order: Law & Order: Criminal Intent")など、スピンオフした番組もあり、どいつもこいつも息が長い人気番組。
日本でもCSで放映されている。

この『ロー&オーダー』フランチャイズは、全てニューヨークが舞台で、撮影もニューヨークや近郊で行われている。どのエピソードもたいてい誰かが死体を発見するところから始まるので、ちょいと想像力をはたらかせば、毎回死体役と発見者役の俳優が必要だということがおわかりいただけるはず。

そのほかにもちろん、ちょっとした目撃者や通行人、犯人が必要になるのだから、この番組の中で死体になったり、死体を発見したり、だれかを死体にしたり、だれかが死体になるのを目撃して俳優として成長してきた役者は多いということだ。

しかも、オリジナルの『ロー&オーダー』が19年前から放映されていることを考えると、この番組がニューヨークの舞台俳優達にとって、いわばハローワーク的な存在になっていることが簡単におわかりいただけるだろう。

そして、新しいハローワークとして登場したのがグレン・クロース(Glenn Close)主演の『ダメージ』ということらしい。

主役パティ・ヒューズを演じるクローズが、ニューヨークでの撮影を出演の条件にしたことからもおわかりのとおり、『ダメージ』の舞台と撮影はニューヨーク。当然のことながら、ニューヨークの俳優達にお仕事の口をたっぷり提供している。

納豆のように糸を引く演技でわたしがひいきにしているジェリコ・イヴァネク(Željko Ivanek)は弁護士レイ・フィスクを演じたし、トム・アルドリッジ(Tom Aldredge)はアンクルピート役だ。

エレンの母親役で数回登場したベテラン女優はデボラ・モンク(Debra Monk)だったし、リバイバルミュージカル『シカゴ』のオリジナル ビリー・フリンだったジェームス・ノートン(James Naughton)はパティの友人役でちょろっと登場して、歌まで披露してくれた。(次に登場するときは踊ってくれるかもしれない。)

シーズン2で大会社の顧問弁護士を演じたマーシャ・ゲイ・ハーデン(Marcia Gay Harden)も舞台経験豊富で、今年のトニー賞でストレートプレイの主演女優賞を受賞したばかりだ。

しかし、『ダメージ』に出演する舞台俳優達はなんだか『ロー&オーダー』とはちょいと様子が違う。

アメリカでは来年の1月から放映が始まる、シーズン3に登場予定の舞台俳優達の名前をちょいと見てみよう。

キャンベル・スコット(Campbell Scott)にマーティン・ショート(Martin Short)、リリー・トムリン(Lily Tomlin)にキース・キャラディーン(Keith Carradine)。

うーん。どれも映画でもおなじみの既に有名な俳優ばかりで、舞台ではメインキャストとしてビルボードに名を連ねる役者ばかりじゃないか。

なるほど、ということは、『ロー&オーダー』はまだ顔の知られていない無名な俳優が、死体としてして顔(死に顔?)を売り、経歴に箔をつける場所で、『ダメージ』は既に顔の知られている有名な俳優が、まだ生きていると顔を見せ、プロデューサーやキャスティングディレクターにアピールする場所ということか?

ほほう。
なんだかきっちり棲み分けができているようだわい。



注1:劇場で配られるPLAYBILLは毎月新しく発行されるのだが、表紙と真ん中の芝居の情報部分だけを劇場と演目に合わせて差し替える仕組みになっている。なので、どれが何年の何月号なのか、中をチェックしないとよくわからない。
また、別の劇場で別の演目を見ても、同じ月にもらったPLAYBILLに載ってる特集記事は同じものだ。

注2:わたしは幕が上がるまで座席に座ってこのPLAYBILLをめくり、役者やクリエイターの経歴を読むのが大好きなのだが、今まで読んだ中で一番面白かった
PLAYBILLは『モンティ・パイソンのスパマロット』("Monty Python's SPAMALOT")だ。演目にふさわしいジョークたっぷりの内容で、隣に座っていたオヤジなど、ミュージカルが始まる前から客席で大爆笑していた。(いや、わたしも人のことは言えないのだが。)
その『スパマロット』の出演者、クリストファー・シーバー(Christopher Sieber)のプロフィール欄の最後に、「シーバー氏は『ロー&オーダー』には出演していません」との一文があり、思わずにやりとしてしまった。

2 comments:

  1. うーん、なるほどNYではこんな仕組みができあがって
    いるのですね。そうやって見ると、なんだかドラマも
    キャスティングからじっくりみたくなってきちゃい
    ますね。

    ダメージのシーズン2をやっと見終わりましたが、
    やっぱりパティがやってくれましたね。ほんと、
    シーズン3が待ち遠しいです♪

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  2. youandtさん、こんにちは〜!
    そうなんですよ。『ダメージ』を見ると、舞台で知ってる俳優がぞろぞろと出てくるので、別の楽しみもあります。残念ながら、『ロー&オーダー』に出演した俳優のほうは名前も顔も覚えていない役者が多く、「きっとセントラル・パークをジョギング中に死体を発見した役で出ていたのだろう」と納得することにしています。

    しかしほんと、パティったらやってくれましたね!

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