ニューヨークやワシントンDC他、シカゴやツインシティ、ミルウォーキー、マジソンなどで配られているフリーペーパーで、日本に帰国してからはもっぱらウェブ版をチェックしている。
先週、そのオニオン紙にメリル・ストリープ(Meryl Streep)が"Name One Masterpiece Of Cinema That I've Starred In"と題する記事を書いていた。
長いが、ざっくり訳すとこんな感じだ。
『わたしが出演するクラッシック映画を一つ挙げてごらんなさい』
昨日、友人と、偉大な俳優の共通点は、少なくとも一つのクラッシック映画に主演していることだと話していたのです。わたしの友人でもあるアル・パチーノの場合、明らかに『ゴッドファーザー』と『狼たちの午後』。ロバート・デ・ニーロは『レイジング・ブル』と『タクシー・ドライバー』。ダイアン・キートンは楽勝仕事の『アニー・ホール』。
しかし、途方に暮れてしまった俳優が一人います。わたしです。もちろんわたしは素晴らしい女優ですよ。わたしはメリル・ストリープ。アカデミー賞を2度受賞し、ノミネートは15回。これは記録です。でも、わたしと友人がたどり着いた結論は、メリル・ストリープという名前は、ある本当に忘れがたい映画と同意語にはなっていないということなのです。考えると妙ですが、でもこれは否定できない事実です。
どうぞご遠慮なく、わたしが主演してるクラッシック映画を挙げてごらんなさいな。でも言っておきますが、わたしが演じたクラッシックな役柄じゃなく、全体的にみても素晴らしい作品となっている映画を1本、ですよ。
たぶん、まず最初に『クレイマー、クレイマー』を思い浮かべるんじゃないかしら。わたしと友人がまず飛びついたのもそれ! でも正直に言うと、『クレイマー、クレイマー』は、そう、『フレンチ・コネクション』や『波止場』が名作だと言うのと同じようには名作とは言えないのです。どんなに想像力をたくましくしても『クレイマー、クレイマー』は悪い映画ではありません。むしろとても良い映画です。もしまた上映されたらわたしだって観るでしょう。でも、どちらかと言えばメリル・ストリープの映画というよりはむしろダスティン・ホフマンの映画。その上、ダスティン・ホフマンと言えば、『クレイマー、クレイマー』は『卒業』『トッツィー』『真夜中のカウボーイ』の後に続く4番手です。
言っておきますが、わたしは別にコトを荒立てようとしているわけじゃないのです。ただあるがままに述べているだけ。
もちろん、次にくるのは『ソフィーの選択』。ええ。確かにそうでしょう。まったく納得がいきます。しかし実際問題最近『ソフィーの選択』を観ましたか? あらまあ、上手く歳をとれなかった映画の話? わたしのパフォーマンスはとても素晴らしい。それには疑いはありません。それどころかオスカーに値します。でも、あの長い独白を語っているのがもしわたしじゃなかったら、果たして観客は『ソフィーの選択』を本来の姿として観たかしら? つまり、三角関係をありふれたものにしないためにホロコーストのバックストーリーを放り込んだ、いくぶん型どおりのメロドラマとして観たかしら?
AFIのベスト映画100のリストを見たら、『ソフィーの選択』は『フォレスト・ガンプ』や『シックス・センス』の下、91位でした。正直言って、わたしに言えたのは「妥当だわね」ということだけ。
さあ、こうなったらあなたはわたしの出演映画作品目録を丹念に調べ上げないといけないわね。なぜなら、あなたは今頃こう考えているはず。「今の世代で最も偉大な女優の一人、いや、ひょっとして一番偉大である女優—あなたは国宝と言うかもしれないわね—が、『ネットワーク』と同じくらい優れた映画の1本にも出演していないなんてあり得るのか? しかも、『ネットワーク』はフェイ・ダナウェイが出演した映画の中では最高傑作でもないのに?」
『ディア・ハンター』。それ! いいえ、実は違う。『ディア・ハンター』にはいくつか気になることがあるのです。一つは、過大評価されているということ。ええ、はっきり言いましたとも。二つめは、『ディア・ハンター』にわたしがどれくらい出演していたかしら? 三つめは、たぶん4分くらい? 正直に言うと、自分でも『ディア・ハンター』に出演したことを全く覚えていないのです。(『マンハッタン』も同じこと。)次に来るのは『愛と哀しみの果て』。でもちょっとよしてくださいな。この映画がある種最悪の映画だってことは皆知ってるじゃありませんか。これと『マディソン郡の橋』・・・。『マディソン郡の橋』のことをわたしに話させようなんて気は起こさないほうがよろしくってよ。
『マイ・ルーム』? 掻き集め始めましたね。違う? 『ダウト』。ええ、今から20年もしたら、誰もが映画版の『ダウト』のことを話していることは絶対に間違いないでしょう。『激流』。よろしくって? わたしは『激流』が好きです。良くできたスリラー。素晴らしいキャスト。でもあれはクラッシックじゃありません。
ああ、それから『プラダを着た悪魔』を挙げたい人に言っておきます。あなたの慈悲心は必要ありませんから。
何よりも苛立たしいのが、わたしはアメリカ映画で最も素晴らしい映画を制作してきた監督たちと仕事をし続けて来たことなのです。ただ、わたしはその素晴らしい映画のどれにも出演していないだけ。ロバート・アルトマンとも一緒に仕事をしましたけれど、でもそれは『今宵、フィッツジェラルド劇場で』でした。マイク・ニコルスが電話して来たのは『愛の狩人』のためじゃなく、『心みだれて』のため。いったい、マイク・ニコルス以外で『心みだれて』のDVDを持ってる人がこの世にいるのかしら?
さあここまで来ました。わたしは60歳、『カッコーの巣の上で』も『俺たちに明日はない』もわたしの名前にはくっついてきません。メリル・ストリープ、「偉大な女優、まあまあの映画」
ところで、『クライシス・オブ・アメリカ』はクラッシック作品ではありませんから。まあ、少なくともわたしが出演しているほうは。
これを読んだわたしは膝を打ちながら笑い転げた。
(断っておくが、膝を打ちながら笑い転げるにはちょっとした技術と訓練が必要だ。)
なるほど、確かにメリル・ストリープの言う通り。
彼女のフィルモグラフィーを検証してみたが、良い映画はずらりと並んでいるものの、泣く子も黙るクラッシックの名作を探しているとあっと言う間にリストの2009年のところまで来てしまう。意外や意外。「これだ!」と言う作品がトンと見当たらないのである。
ストリープ様のおっしゃることがあまりにも的を射て面白かったので、帰宅した相棒に早速「メリル・ストリープが出演してるクラッシック映画を1本あげられる?」とやってみた。
すると相棒はこう即答した。
「1本も無いからあげられない。」
ち、ちきしょう。相棒め。さてはこの記事を既に読んでいやがったな?
しかし、わたしの読みは外れていた。
相棒はいたってシンプルな理由であっと言う間にその結論に達したらしく、読んでいないからこその真面目な結論だったのだ。
曰く、過去30年間に作られた映画はそもそもクラッシックとは呼べない。
曰く、メリル・ストリープの映画出演歴は過去約30年(正確に言えば、1977年の『ジュリア』が映画デビューなので今年で32年)。
曰く、従ってそもそも彼女の主演映画の中からクラッシックを探そうというほうが無理。
まあもっともな意見である。
しかし、それでもオニオン紙の記事が面白いことには変わりがない。
そしてその面白さの所以はメリル・ストリープ本人が書いたことになっているところにある。
え?
おっと失礼。上に書き忘れておりました。
ご存知でない方にここで申し上げておきますと、The ONIONはパロディ新聞なのでございます。
つまり、書かれている記事も全てパロディ(注2)で、上の記事も本当にメリル・ストリープが書いたわけではない。
しかし、パロディながら言わんとするところはピシッと押さえている。
メリル・ストリープ主演のクラッシックと呼べる名作映画。
こいつは今のところ存在しない。
注1:アメリカでは去年の12月、日本では今年6月に公開されたミッキー・ローク主演の映画『レスラー』(The Wrestler)の脚本を書いたのは、オニオン紙の元編集長ロバート・シーゲル(Robert Siegel)。映画の最初のほう、ローク演じるランディにサインを求めるファン役でもちょこっと出演している。
注2:何ヶ月か前に「スティーブン・ボールドウィン(Stephen Baldwin)のパーソナル・アシスタントが昇進し、スティーブン・ボールドウィンになることが決定した。この昇進にともなう昇給等は無いが、責任は以前 の仕事よりも小さくなる。」というふざけたニュースが載っていたし、American Voicesという街頭インタビューのコーナーに登場する顔写真はいつも同じ数人を使い回し、名前だけが変わる。テレビ番組のエピソード紹介もデタラメである。
<おまけ>
映画オタクに捧げる「メリル・ストリープが書いた」記事の中に登場する映画一覧
(記事内の登場順)
さあ、クラッシック映画はどれ?
『ゴッドファーザー』(The Godfather)1972
『狼たちの午後』(Dog Day Afternoon)1975
『レイジング・ブル』(Raging Bull)1980
『アニー・ホール』(Annie Hall)1977
『タクシー・ドライバー』(Taxi Driver)1976
『クレイマー、クレイマー』(Kramer vs. Kramer)1979
『フレンチ・コネクション』(The French Connection)1971
『波止場』(On The Waterfront)1954
『卒業』(The Graduate)1967
『トッツィー』(Tootsie)1982
『真夜中のカウボーイ』(Midnight Cowboy)1969
『ソフィーの選択』(Sophie's Choice)1982
『フォレスト・ガンプ』(Forrest Gump)1994
『シックス・センス』(The Sixth Sense)1999
『ネットワーク』(Network)1976
『ディア・ハンター』(The Deer Hunter)1978
『マンハッタン』(Manhattan)1979
『愛と哀しみの果て』(Out of Africa)1985
『マディソン郡の橋』(The Bridges Of Madison County)1995
『マイ・ルーム」(Marvin's Room)1996
『ダウト〜あるカトリック学校で〜』(Doubt)2008
『激流』(The River Wild)1994
『プラダを着た悪魔』(The Devil Wears Prada)2006
『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(A Prairie Home Companion)2006
『愛の狩人』(Carnal Knowledge)1971
『心みだれて』(Hearburn)
『カッコーの巣の上で』(One Flew Over The Cuckoo's Nest)1975
『俺たちに明日はない』(Bonnie And Clyde)1967
『クライシス・オブ・アメリカ』(The Manchurian Candidate)2004

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